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当人の説明では赤は身体(からだ)に薬になるから、衛生のためにわざわざ誂(あつ)らえるんだそうだが、入らざる心配だ。そんならついでに着物も袴(はかま)も赤にすればいい。それから英語の教師に古賀(こが)とか云う大変顔色の悪(わ)るい男が居た。大概顔の蒼(あお)い人は瘠(や)せてるもんだがこの男は蒼くふくれている。昔(むかし)小学校へ行く時分、浅井(あさい)の民(たみ)さんと云う子が同級生にあったが、この浅井のおやじがやはり、こんな色つやだった。浅井は百姓(ひゃくしょう)だから、百姓になるとあんな顔になるかと清に聞いてみたら、そうじゃありません、あの人はうらなりの唐茄子(とうなす)ばかり食べるから、蒼くふくれるんですと教えてくれた。
停車場はすぐ知れた。切符(きっぷ)も訳なく買った。乗り込んでみるとマッチ箱のような汽車だ。ごろごろと五分ばかり動いたと思ったら、もう降りなければならない。道理で切符が安いと思った。たった三銭である。それから車を傭(やと)って、中学校へ来たら、もう放課後で誰(だれ)も居ない。宿直はちょっと用達(ようたし)に出たと小使(こづかい)が教えた。随分(ずいぶん)気楽な宿直がいるものだ。校長でも尋(たず)ねようかと思ったが、草臥(くたび)れたから、車に乗って宿屋へ連れて行けと車夫に云い付けた。車夫は威勢よく山城屋(やましろや)と云ううちへ横付けにした。山城屋とは質屋の勘太郎(かんたろう)の屋号と同じだからちょっと面白く思った。